幸福の木367諦念3NMegumiHanako

松本興産本社

母と一緒に室内に入ると彼は立ち上がってこちらに会釈した。

噂は伺っていましたが、アメリカから戻られて現在は?

スタイルで働くことになりました。

まあ、じゃあお兄さんを助けるのね?

ええ、二番目の兄が正式に父の作った会社の社長に就任したので、兄弟で盛り立てていく覚悟です。

二番目の兄?

私は和也くんのそのワザとらしい言葉に引っ掛かかるものを感じた。

母の、曄子でございます。

始めましてこんな間近でお会いできるなんてとても光栄です。

いえ、そんな。

母がよそ行きの笑顔で対応していた。

一番上の兄が大変お世話になったと伺ってます。

本来ならもっと早く伺うべきでしたが、こちらも事情があって。

櫻井さんのそちらの社長の事なら少なからず事情を伺っておりますからお気遣いは無用です。

いいえ、そんなわけには

先日はその兄がこちらに押しかけて大変ご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありませんでした。

深と頭を下げる。

昨日、すでに秘書がお詫びに訪れていたから、わざわざ良かったのに

だが、今日は改めて母と会いたいという連絡が来て、こちらは驚いていた。

本当は直接会長に伺いたかったんですが、こちらは敷居が高く

お礼も遅くなってしまいました。

そんなに敷居が高いかしら?

ついこの前、潰れそうだった会社だ。

もう関係ない者とは言え、こちらに錦織がご迷惑をかけたと伺いましたから。

彼らとの関わりは母の代に途切れていますが、縁戚には違いない。

気になさらず

それより智くんは元気にしていますか?

はい。

実は兄は現在海外に行っていて昨日も電話で話したばかりです。

海外に行っているの

それで活動が無かったんだと納得する。

大ちゃ智さんはお兄さんとして櫻井家に戻られているんですか?

当然です。

驚いた

聞いた話だと、社内では大ちゃんの事は絶対に禁句だって厳戒令が敷かれているとの事だった。

もっとも、二番目の兄が知ったのはごく最近で本人をとても動揺させてしまいました。

こちらにご迷惑を。

あの時翔くんは潤に話したい事があるって言っていたの。

ええ、聞いてます。

兄の事を知って、改めて潤くんにお礼が言いたいと申しておりました。

お礼?

あれがお礼が言いたかっただけ?

そんな簡単な様子じゃなかった。

だが、目の前の青年はサラリと涼やかな笑顔を見せていた。

どう切り出す?

翔くんに直接会いたいって言ってみる?

お兄さんにはもう気になさらないようにおしゃってください。

うちは智を本当に息子のように思っているんです。

一度、顔を見せてい欲しいって本人に伝えてくだされば。

それは無理でしょう。

え?

確かにお世話にはなりました。

感謝もしています。

ですが、兄がこちらを出て行くきっかけになったのは潤くんが女性を妊娠させたことが原因だと聞いてます。

私は母と顏を見合わせた。

確かにそうだけど、アレは全く女性側の嘘だったんですよ。

慌てて訂正した。

ええ、それも伺ってます。

ですが、そんな事があって兄もこちらと関わりずらく思っていると思います。

そんなこと

大ちゃんに直接聞いてみないと分からないじゃないっ。

兄は本来の居場所に戻ったんです。

ええ、良かったです。

でも

こちらは家族も同然に思っていたものですから、様子だけでも知りたいんです。

何故ですか?結局他人だ。

私はまじまじと目の前の男を見た。

彼は一体何しに来たのっ。

すみません。

お世話になった事には感謝しているんです。

ただ、潤くんは俺が兄を必死で捜していたことを知っていたにも関わらず、一度も教えてはくれなかった。

その間、生きているのか死んでいるのか心配だったこちら側の事もご理解ください。

だったら

だったら何だって追い出したりしたのよっ!

グイッ、

横に座っていた母が私の手をそっと握り、何とが耐えた。

曄子夫人に確認したい事があるんです。

何でしょう?

さと兄はこちらの会長を父親だと信じているようですが、誤りですね?

え?

何を言っているの?

母を振り返ると、少し驚いていたのがわかった。

兄妹じゃない?

私と大ちゃん、兄妹じゃなかったの?

誤りかどうかは分かりません。

お母さん?

でも、検査くらいした筈だ。

ええ。

結果は?

親子ではなかったでしょ?

それはそうです。

だって、さと兄の父親は他に存在しますから。

え?

一体どういうことなの?

だが、慌てる私の横で母がふっっと笑った。

和也君も母の様子を奇妙に感じた様だった。

検査をしました。

はい。

結果は陰性で、夫と親子関係ではないといいう結果が出てしまいました。

お母さんっ。

私は突然知らされた事実にただ愕然とするだけだった。