時空の果てに5帰路

ヨンは職務を終わらせ帰路に就く。明日は予てよりの念願だった暇を賜った。夫婦になって何度目の春か。道端には満開の桜が綺麗に咲き誇っていた。

ヨンは足を止め桜を見上げた。

此処の桜並木は見応え充分。

心地良い風に舞う無数の花弁。

まるで雨の様に花吹雪を降らす。

明日ウンスを連れて来ようか

その時ヨンの脳裏にウンスの怒った顔が浮かぶ。仕事が忙しく邸には殆ど戻らない日。きっと一人寂しがっている筈。それとも拗ねるだろうか。俺は忙しいのだ。仕方あるまい。

何年経っても俺は変わらぬ。全く自分が情けない。成長の欠片もない。本当は

会えぬのが寂しいのは俺の方だ。

市場に入ると急に賑やかな声で溢れる。

ウンスは此の市場が好きだ。

いつも活気満ち溢れる声と行き交う人の笑い声の中にいるだけでウンスは心踊ると言う。

一体騒がしいだけの何が良いのか

しかしヨンにも町人の生き生きとした顔が何より職務遂行の糧だった。

すると露店の軒先に並ぶ小さな首飾りがヨンの眼に止まる。赤い紐の先には銀製の雫の様な形に翡翠が埋め込まれていた。ヨンはその首飾りを手に取ると陽の光に反射し七色に輝く。それはまるで雨露の様に美しく不思議な色だった。

降り始めの雨が好き

昔懐かしいウンスの言葉を思い出す。

あの折はウンスを護るのに必死で天に戻すと葛藤し今となればもう思い出に過ぎぬ。

首飾りを見つめ想いに耽ると店主がヨンに気付き近づいて来た。

旦那。さすがお目が高い。それはつい先日入って来た品で高麗一の職人が丹精込めた頸飾です。高麗にはまだ出回っていない大変珍しい代物ですよ。

店主の申している事は真か否か

まあ、何方でもよい。

ヨンは首飾りを見て笑みを浮かべると、

店主。此れを頼む。

此れで機嫌を直せばよいが

ヨンは首飾りを受け取ると帰路を急いだ。

邸に着くと温かな灯りがヨンの目に入る。

門を跨ぐと夕餉のいい匂いがする。

石畳をゆっくり進むと庭に植えられた無数の草花がヨンの帰りを歓迎している様だった。

そして玄関の戸を開けると、

バタバタバタッ!

ヨン!お帰りっ!!

飛び切りの笑顔のウンスがヨンを出迎えた。

にほんブログ村

参加中です。

をポチッとよろしくお願い致します。

画像提供まいあ様